(松浦だるま『累-かさね-』6巻)
くろやんです。
『累-かさね-』6巻のあらすじや感想を紹介しようと思います。
今回、大きな転機を迎えます。
淵累の居場所を探っていた野菊。
一方で、正体を知らないまま累(丹沢ニナ)とも交流を続けていた。
ある日野菊は、累の秘密である本物の丹沢ニナの存在を知ることになる。
さらに、口づけで顔が入れ替わる、口紅の力についても知った野菊。
丹沢ニナとして周囲を欺き、自分に接していた累の秘密を白日の下に晒そうと、野菊がとった行動は…。
以下、6巻のネタバレを含みますので注意してください。
ニナの望み
口紅の力を封じる方法は何かあるのだろうか、と考えた野菊。
累が肌身離さず持っている口紅を奪うことは難しい。
ならば、入れ替わりの対象である丹沢ニナを調べるしかない。
野菊は再び丹沢ニナの母親と会うことにします。
ニナの母親に真実を伝えようかと考えたものの、やはり切り出すことはできず。
帰り際、野菊は玄関の壁に掛けられていた丹沢ニナの部屋のカギをこっそり持ち出します。
そのカギを使い、累が留守の隙に部屋に入った野菊。
以前カギのかかっていた部屋は施錠されておらず、野菊は再び丹沢ニナと対面します。
そこで、植物状態だった丹沢ニナに野菊が話しかけていると…。
なんとニナの指が動きました。
意識はあるが、会話ができず指しか動かせない。
ニナは植物状態となってから意識をもったまま、孤独に空虚な時間を過ごしていたという。
会話が困難なニナと、意志の疎通を図ることはできないだろうか。
野菊が天ヶ崎に相談すると、口文字盤という方法を教えられます。
この口文字盤、実際に会話が困難な人とやり取りをする際に用いられるようです。
その方法を使って、ニナと会話することにした野菊。
ニナは自分の母親に知らせないでほしいと言いました。
そして、ニナが野菊に懇願したことが「自分を殺してほしい」というものでした。
ニナの望みが切なく悲しすぎる。
植物状態になっていたニナが、実は意識があったという。
ニナの視点から物語を見てみると、すべてを奪われた上に、意識はあるけど何もできない日々をずっと送っていたのはあまりに不憫。
生きていると言えるのかわからない、牢獄の日々を過ごしていたニナのことを考えると悲しい。
このニナの望みを知った野菊は…。
あなたは悪くない
「そんなことできない」と、野菊がニナの望みを拒んでも、尚も同じ言葉を繰り返したニナ。
ニナの望みに憤りを感じ、その想いの強さに恐怖した野菊は一旦その場を去ります。
どうしたらいいのか野菊は葛藤し悩むことになります。
そんな時、天ヶ崎から丹沢ニナ(累)の舞台公演が始まることを知らされます。
累の舞台『ガラスの動物園』を観た野菊。
以前はその素晴らしい演技を観て、心を打たれていた野菊でしたが。
丹沢ニナの正体を知った今となっては、それらがおぞましいと感じるようになっていました。
「ころして」というニナの望み。
その言葉には自らの死と、自分が超えることのできなかった偽物(丹沢ニナ)を消してほしい、という願いも込められていました。
舞台が終わり拍手の中、客席の野菊に向かって手を振る累の姿を見て、野菊はこう呟く。
「偽物ごときが…本物に迫るなど許せない。私が…殺してあげる」
ニナの言葉の意味と想いの強さがわかった野菊は、その望みを叶える決心をします。
再び、ニナのもとにやって来た野菊。
もう誰も累と口紅の餌食にならないよう、終わらせてみせる。
そうニナに伝えた野菊は、ゆっくりニナの顔に枕を押し当てます。
自分の父親を手に掛けた野菊ですが、今回はまた状況が違う。
自分にしかできないと言い聞かせるも躊躇いを見せる野菊。
そんな野菊にニナは、「あなたは悪くない」と言葉を掛けます。
最期の言葉が、死を恐れるでもなく、罪を負う野菊を案じるものでした。
柔らかな日射しと白い静寂の中で、丹沢ニナは終わりを迎えます。
この後に、植物状態となってからのニナの独白があります。
ニナの絶望や悲しみ。
そして、累や野菊に対してニナがどう思ったのかが語られます。
生きるために
ここからは累の視点に戻ります。
既に丹沢ニナとして生活することが当たり前になっていた累ですが。
この6巻で印象的なエピソードがあります。
舞台の稽古が終わり、累が携帯で雨野と電話をしていた帰り道で。
累が落とした手袋を、累の動向を探っていた天ヶ崎が拾ってくれます。
しかし、累はその手袋を掴むことを躊躇します。
醜い容姿で嫌悪され蔑まれていた累が、無意識に醜い容姿の天ヶ崎を蔑むという皮肉。
ここは、人のシビアな心理を表現していて印象深いです。
ニナが亡くなったことで、突如累は奈落の底へと堕ちることになります。
あの後、ニナが亡くなっていることを知った累は急いで羽生田に連絡。
累も羽生田も、このニナの死が誰かによるものとはわからず、植物状態での突然死という風に考えます。
もう“丹沢ニナ”として生きることはできない。
入れ替わりの痕跡となる物は部屋に一切残さず、ニナの遺体を羽生田にまかせ、累は地方の街に身を潜めることにします。
女優“丹沢ニナ”が失踪したと連日報道され、累はほとぼりが冷めるまでの間、しばらくじっと待つことになるが…。
これまで歩いてきた丹沢ニナとしての道が終わり、名声も友情も愛情もすべて失うことになってしまった。
からっぽの部屋で過ごす間、累は失ったものを思い出します。
そして、再び元の自分の顔で過ごすようになってから、口紅を使う以前よりも屈辱的で惨めだと累は感じるようになっていきます。
人の目が気になり外を出歩くこともできず、鏡で自分の姿を見ることも耐えられない。
醜い自分に生きる価値は無い。
己の醜さが死ぬまで纏わりついてくる。
このまま死ぬまで、一人暗いところにいるのは嫌だ。
光の中で美しくありたい。
累は母(いざな)と同じように、生きるために美しさが必要だと強く感じるようになっていく。
そこで、累は野菊の存在を思い出す。
まとめ
6巻では、丹沢ニナが終わりを迎えます。
累とニナとで作り上げた女優“丹沢ニナ”と、本物のニナ自身の死です。
ここまでの流れが誰の視点で見るかによって、受け取る印象がまた違ってきます。
累の視点で進むと。
かつてイジメられ虐げられていた累が、美しい顔を手に入れ、欲しかった名声も愛もすべて奪い取ってやろうというサクセスストーリーを歩んでいる。
その裏で口紅の餌食となり、顔も名前もすべてを奪われ植物状態となってしまい、ただ虚しい時を過ごすニナがいる…。
ニナの独白は、これまでの舞台の裏側ですね。
初めはニナの飛び降り以降、迷いを見せてニナへ話しかけていた累が、ある日を境に一切話しかけなくなったというところ。
もし口紅を使うことを止めて、そのまま累が話しかけ続けて、ニナが目覚めたとしたら…。
また違った結末があったかもしれないですね。
そう考えると、このニナの結末は切ない。
最終的に、『累-かさね-』はどういう終わりになるんだろう。
ただ累が破滅を迎えるというのも後味が悪いですし、誰かと顔を入れ替えて累が女優として成功するというのも、今回のニナの件で難しいようにも思える。
とにかく暗い重い本編と反対に、巻末の累+ニナ+野菊の4コマがほのぼの可愛すぎる。
本編でも三人揃ったとこが見てみたかった。
こんな幼女バージョンと違って、ギスギスしそうですけども。
あと、小説「誘-いざな-」が気になります。
続きはこちら。
累-かさね-7巻のネタバレ感想【過去をもたない、新たな女優の誕生】