(松浦だるま『累-かさね-』3巻)
くろやんです。
前回から間が空きましたが、『累-かさね-』3巻のあらすじや感想を紹介します。
2巻で互いの利害が一致したため、協力関係になった淵累(かさね)と丹沢ニナ。
累は口紅の力を使い、美しい顔の“丹沢ニナ”として舞台に立ちます。
着実に女優としての道を歩み始め、本物のニナ以上に輝きを増していく累。
一方で、累に美しい顔と女優としての道も奪われていくニナ。
以下、3巻のネタバレを含みますので注意してください。
追い込まれたニナの行きつく先
ニナの前に現れた累は、ニナの顔をしているが、別人のように美しく変わっていました。
顔の美しさが引き立つよう、髪型や化粧、服の趣味を変えたと言う累。
結局あの夜、ニナは烏合に「君を別人のように…他人のように感じるんだ」と拒絶され、一線を越えることはなく。
累も烏合からのメールで、そのことを知ったという。
ニナはもうこんな協力関係はやめようと口にするが、累はニナの母親からの留守電を聴かせます。
女優として活躍する娘の姿を見て、安心できたというニナの母。
両親を悲しませないよう、女優“丹沢ニナ”の名声のため、ニナはこのまま累との協力関係を継続することに。
その後、累がいくつも舞台をこなし、女優として名を馳せる一方で、ニナは頻繁に睡眠発作に襲われるようになります。
一年半の月日が流れ…。
暗い部屋で夢か現実かわからない生活を続けていたニナは、次第に心を壊すように…。
ある日、累が目を覚ますと、部屋からニナが姿を消していました。
ニナは累がリハーサルを行う予定だった劇場に行き、うつろな目で『かもめ』の台詞を呟いていました。
劇場にやって来た累を見て、「私はもう…ニーナでも、丹沢ニナでも…誰でもないのよ!誰の記憶の中にも存在していない!」と、気付いたニナ。
錯乱したニナは屋上へと走っていき、累はニナの後を追う。
「眠りから醒めた時、私に戻ってくるはずだったものは、すべて奪われてしまった…」と、涙を流しながらニナは言います。
仮に累の存在を手放して、ニナ自身が舞台に立ったとしても、周囲を失望させて恥をかくだけ。
「忘れられるより、辛い屈辱が待っている。だからと言って、今の状態を続けることも、もう耐えられない!」と、叫ぶニナ。
ニナは不要になった自分と、累が作り上げた“丹沢ニナ”を消すため、屋上から飛び降りる。
精神的に追い詰められたニナの台詞が痛々しい…。
登場した最初は、傲慢な印象が強かったニナ。
でも、ここまで袋小路に追い込まれて、もう自分を消すしかないと決心するまで心を壊してしまうとは…。
口紅によって、相手のすべてを奪うという行為がどういった結末を生むのか。
ここではニナの憎しみも絶望も、感情が剥き出しで、心を揺さぶります。
累の迷い
病院に搬送されたニナは、奇跡的に一命をとりとめます。
累は飛び降りた直後のニナに口づけをし、顔を入れ替えていたため、この自殺を図ったのは淵累(かさね)ということになっていました。
病院で累の伯母(淵峰世)と、意識不明の累(ニナ)を今後どうするかについて、やり取りがありますが。
丹沢ニナとなった累と峰世の会話が、どちらも腹黒いこと腹黒いこと(´Д`)
(累のは取引のための演技ですが)
峰世に累(ニナ)の延命治療、そして介護のすべてを自分達にまかせることを了承させます。
しかし、累は本当にこれでよかったのか、と迷いが生じます。
ニナの心を壊し、植物状態にまで追い込んで、すべてを奪う自分の行いは醜いのではないかと。
そんな累に、羽生田は「もうお前は口紅を捨てて、醜い顔でのみ生きていく事に耐えられはしない!」と告げる。
ニナは意識を取り戻すことはなく、累は自分がどうするべきか分からないまま、ニナの姿で舞台に立ち続けます。
新しい舞台『サロメ』の稽古が始まった累。
しかし、共演する雨野申彦(うののぶひこ)にダメ出しをされてしまう。
累が演技に集中できないのには理由がありました。
それは、ニナの両親のこと。
ニナの両親は女優として活躍するニナの顔を見に、累の元へとやって来ます。
二人を欺き、娘として振る舞う累。
母親はそんな娘にどこか違和感を覚えます。
その後も頻繁に家を訪れるようになるニナの母親。
徐々に娘の様子がおかしい、娘が本当は別人ではないかと疑惑を抱いていきます。
累がそのことを羽生田に相談すると、羽生田はある提案をします。
その提案に対して「そんなやり方…ひどいわ。あんな優しい母親に」と、ためらう累。
口紅の効果が切れ、ニナに口づけをしようとした累は、そこで抱えていた想いを吐露します。
そんな迷いを見せる累に、羽生田は残酷な現実を突きつける。
累の髪を掴むと、鏡の前へと引きずっていき、「鏡を見ろ」と自身の顔を直視させます。
鏡に映る醜い顔を見た累。
この顔のせいで、これまで何もかも奪われ虐げられてきたことを思い出す。
累は、自分が丹沢ニナとして生きる世界を壊されないように、誰も彼も欺いてみせると決心する。
ニナからすべてを奪った累ですが。
非情に徹することができず、迷いを見せることが多いです。
自分が恐ろしいことをしていると自覚するものの、羽生田に突き動かされて、最終的に今の生活を維持するため、欺き続けることを誓います。
羽生田は累に対し、亡くなった透世(本名:いざな)の影を重ねて見ている時があります。
この羽生田と透世(いざな)、二人にどういう過去があったのかも気になるところ。
母と娘の絆
羽生田が累に提案した、ニナの母親を黙らせるという方法。
それは、娘を疑うことのない父親を味方につけたまま、娘を娘じゃないと疑う母親のことを『病気じゃないのか?』と仄めかすことでした。
「身近な人物が瓜二つの別人にすり替わっている」という妄想を抱く、カプグラ症候群という病気。
ニナの母親は夫に「君は病気だ!」と言われてしまう。
しかし最後までニナの母親は、どんなに累が精巧に完璧な“丹沢ニナ”として娘を演じても、自分の娘じゃないと確信を持ち続けました。
母と娘の絆。
それは累にも言えることで…。
母譲りの演技力をもって、母と同じく女優としての道を歩んでいく累。
舞台の稽古中、時折現れる母の幻影に惑わされることになります。
サロメの本番を控えた累は、対立していた共演者の雨野に「お前は、一体誰の意志で舞台に立っているんだ」と問いかけられます。
心のどこかで、後ろめたい気持ちをすべて母のせいにしようとしていた。
初めは母に憧れ、導かれるように女優の道を歩き始めた。
でも、今は自分の意志で舞台に立っている。
「奈落の底から光の元へ、私は私の意志で這い上がる」
そう想いを固めた累は、観客が待つサロメの舞台本番へと臨む。
まとめ
なかなか濃い巻です。
ニナの飛び降りや、累がニナの母親に疑惑の目を向けられるなどなど。
他にも、高校生の時にクラスで累をイジメていた関という女の子も出てきます。
1巻にも出ていた子ですね。
自分がイジメられていた過去を思い出し、許せないと思う累。
この関に対する復讐を含めて、累は口紅の能力についてのある実験をします。
今回の3巻では、母と娘の絆が印象的でした。
ニナの母親が、最後まで頑なに自分の娘じゃないと確信をもっていた場面。
ちょっと『寄生獣』の田宮良子の話を思い出しました。
確か、田宮良子の母親も自分の娘が娘じゃないと気付いていた描写があったような…。
(手元に漫画がないので、若干うろ覚えですが)
言葉では説明できない、母としての勘でしょうか。
3巻最後で迷いを吹っ切り、罪に汚れながらも、自分の意志で舞台に立つことを決めた累。
このコマ、劇場の観客と同じように、サロメとして光の元へ現れた累の姿に惹きつけられます。
あ、そういえば。
カプグラ症候群、本当にある精神疾患らしいです。
眠り姫病といい、聞き慣れない稀な病名が出てくる演劇漫画。
演劇漫画ではあるけど、主になっている見どころは、突き刺さるような台詞と激しい感情のぶつかり合いだと思います。
続きはこちら。
累-かさね-4巻のネタバレあらすじ感想【美しさは祝福か、呪縛か】