(松浦だるま『累-かさね-』4巻)
くろやんです。
引き続き『累-かさね-』4巻のあらすじや感想を紹介していきます。
自分自身の意志で口紅の力を使い、丹沢ニナとして周囲を欺き続ける累。
ニナから奪った美しい顔と、母譲りの見事な演技力をもって舞台『サロメ』の本番を迎える。
以下、4巻のネタバレを含みますので注意してください。
人並みはずれた執念
これまで口紅を使い、他人の顔や人生を奪うことに迷いを見せていた累ですが。
3巻終わりで、誰の意志でもなく自分の意志で舞台に立つ決意をします。
舞台本番、迷いを吹っ切り、サロメを演じる累。
共演者として累に厳しく当たっていた雨野は、実は以前丹沢ニナ(累)を見たと演出家に語ります。
烏合零太演出の『かもめ』の舞台で、本番を終えたあとの累の姿を見たという雨野。
累は現実に引き戻されるのを拒むように、楽屋で一人うつろな目で台詞を呟いていたそう。
それは、累の舞台への人並みはずれた執着でした。
同じ演技者として、その姿を美しいと思った雨野。
だから、累には中途半端な演技をしてほしくないと、稽古中に厳しく突っかかっていたそうです。
丹沢ニナとして、破滅へと向かうサロメを無事演じきった累。
「自分はサロメのようにはならず、すべてを手に入れてみせる」
累は醜い容姿では手に入れることのできなかった、名声や愛、自分の居場所を確立させていきます。
累の舞台への並々ならぬ執念はさすが。
そんな執念をもつ累(丹沢ニナ)を美しいと思う雨野。
どちらも根っからの役者です。
演じることが好きで、真剣に全力で演技に取り組んでいる。
どちらも演技に対して似ている面をもっているようですね。
そして、『サロメ』の舞台本番を終えたあと、累と雨野は互いに視線で心を通じ合わせます。
ここまで累の視点で物語が進んできました。
4巻28話からは、もう一人の美醜に人生を翻弄される少女の視点で物語が語られます。
野菊
ここから登場する、累と正反対に美しい顔をもつ野菊(のぎく)という少女。
彼女は『伝説の女優』と言われた淵透世にそっくりでした。
野菊が思い出す記憶のなかの母は、自分と似ても似つかない醜い顔をしていました。
それもそのはず。
野菊の母はもともと美しい顔立ちをしていたが、ある日、口紅を使った透世(いざな)によって、美しい顔や地位を奪い取られたそう。
すべてを奪われてしまった野菊の母は、抜け殻のように衰弱して亡くなったという。
ここでも、口紅の力ですべてを奪われてしまった犠牲者が…。
残された野菊は、成長するにつれて透世そっくりに美しくなっていきます。
次第に、女優・淵透世(いざな)を愛していた父親によって、無理矢理体の関係を求められるように…。
そんな不幸な野菊の運命を変える日が訪れます。
偶然、丹沢ニナの舞台『サロメ』を見た野菊の父親。
野菊に淵透世の面影を重ねて求めるが、野菊はそれを拒み、「透世は死んで当然」と言います。
逆上した父親は野菊を殴り、暴言を吐き捨てる。
とうとう限界に達した野菊は、ベッド脇にあったスタンドで父親を殴り殺してしまう。
最後に父親は、「お前は、お前の姉よりも幸福だというのに」と、野菊にある事実を伝えます。
それは、腹違いの姉(累)の存在でした。
野菊の父親は、醜い累を捨て、美しい野菊を選んだと言います。
自分も母も美しさによって、これまで理不尽な仕打ちを受け続けた。
透世(いざな)も父も死んでしまった。
この怒りをどこへ向ければいいのか。
そう怒り絶望していた野菊は、姉の存在を思い出します。
透世(いざな)の娘である累に会いたいと思う野菊。
もし、自分や母よりも幸せに暮らしていたら「絶対にゆるさない」と、野菊は考えます。
屋敷を飛び出した野菊ですが、頼るあてもなく戸籍もない。
彼女は一人で生きていくために、自分の体を客に売ることに。
美しさに引き寄せられる男達に「反吐が出る」と、嫌悪しながらも、そうしなければ生きていけないことを実感する野菊。
野菊は、美しさは「呪縛ね」と言う。
累の腹違いの妹・野菊ですが、まさに薄幸美人。
父親に歪んだ愛情を押しつけられるわ、一人で生きるため体を売ることになるわ。
ふ、不憫( ;∀;)
累と同じく不幸な生い立ちをもつ彼女。
累は醜さゆえに虐げられていましたが、野菊は反対に美しさゆえに虐げられるという。
対比になっていますね。
まぁ、野菊のはかなり特殊といえば特殊ですが。
屋敷に幽閉状態でほとんど外に出たことがないとか、戸籍がないとか。
累と野菊の出会い
美しさは呪縛と考える野菊とは真逆に、美しさによって幸せを実感する累。
サロメの舞台を終えたあとで、累は心を通じ合わせた雨野と男女の関係になります。
役者としての丹沢ニナを認める雨野と、役者としての雨野を尊敬する累。
かつては女として扱われることのなかった自分が、今は女としての幸せを感じ満たされている。
それも、美しい顔ゆえに成り立つ幸せ。
累は、美しさは「祝福だわ」と言う。
ここでは累と野菊、それぞれの台詞が対比になっていて印象的。
ある日、野菊は客の男から丹沢ニナの舞台を見ないかと誘われます。
この男は累が出演する舞台の美術を担当しているらしく、自分の仕事を見て欲しいそう。
最初は拒んでいた野菊。
しかし、“淵透世の再来”と言われる女優・丹沢ニナに興味を覚え、舞台を観に行くことに。
舞台を観始めたものの、肝心の丹沢ニナはなかなか現れず。
かつて、父親に淵透世として演じるよう強要されていた野菊は、次第に舞台を観続けることが苦痛になってきます。
退場しようと出入り口を開けたところで、ちょうど客席側から登場しようとした丹沢ニナ(累)とすれ違います。
累の姿を見て、もう一度客席へと戻る野菊。
累は観客を呑み込み、まるで人間そのものが入れ替わったような演技を始めます。
そして、累が後ろを振り返ったとき、客席へと戻ってきた野菊と互いの視線が合うことに。
母そっくりの野菊の姿を見た累。
舞台を終えたあと、もう一度会いたいと野菊の姿を探します。
慌てて会場内を走っていた累は、バランスを崩して階段から落ちそうになるが…。
そこで、野菊が累の腕を引っ張り、助けてくれます。
運命的に出会った累と野菊。
累は助けてくれたお礼に、と野菊をお茶に誘います。
互いに詳しい事情は知らないまま、ぎこちなくも交流していく二人。
丹沢ニナとして接する累。
野菊の前では、自分の醜さも罪もなかったように穏やかな気持ちでいられると感じます。
同じように野菊も、ニナ(累)の前では自分の汚れを忘れることができると安心感を覚えます。
しかし一方で、憎い淵透世の娘である累の居所を探っていた野菊。
客の男の一人を協力者につけて、着実に累の秘密へと近付いていく。
まとめ
4巻の見どころは、新たに登場した野菊の存在ですね。
彼女は累の居所や口紅の秘密について、独自に調べ始めます。
屋敷に残されていた透世の痕跡を調べたり、協力者に累の居場所を探らせたりと、サスペンスっぽい雰囲気に。
4巻以降も累と野菊、両者の視点が入れ替わりつつ物語が進んでいきます。
美しさによって、幸せを感じる累と、反対に美しさを疎む野菊。
美に対する考えが違いすぎる。
美人なのに、暗い表情が多い野菊。
体を売るようになってからは、蔑んだ目や冷たい表情が多くなります。
そういうのが好きな人にはたまらないかもしれない。
累と野菊がお茶をしたり、一緒に出掛けるところ。
身内以外とまともに接していなかった野菊と、イジメられ友達がいなくて元ぼっちだった累のぎこちないやり取りが良いです。
そのぎこちなさが和む(´∀`)
シリアスで重いストーリーが進むなか、ちょっとしたコマで和みます。
巻末のイラストとか話の間にある4コマとか。
今でも充分ドロドロな重い展開ですが、このあともさらにヘビーな内容になっていきます。
続きはこちら。
累-かさね-5巻のネタバレあらすじ感想【真実を確かめるため、虚構の皮を剥ぐ】