3月のライオン8巻のネタバレ感想【老棋士のたすきは重く手離しがたいもの】

3月のライオン

(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

くろやんです。
『3月のライオン』8巻のあらすじや感想、見どころなどを紹介していきます。

前回7巻のネタバレ感想はこちら。
3月のライオン7巻のネタバレ感想【ひなの『いじめ』の決着、新人戦記念対局と棋匠戦に向けて】

 

今回8巻の表紙は柳原棋匠です。
これまでの零やひな達の若々しいキャラと違って、渋いオッサンが表紙を飾っています。

 

でも、今回はまさに柳原棋匠に美味しいところを持って行かれた巻でした。
台詞や心理描写が渋すぎ&カッコよすぎ!

 

 

以下、8巻のネタバレを含みます。

 

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静かな白い世界

以前、島田は宗谷名人のことを「鳥に似てる」と、零に話していました。
鷺(さぎ)や鶴のような、静かで白くてスッとしたイメージの鳥だと。

そして、新人戦記念対局が始まった時の零もまた、同じように白い鳥の姿を思い出していました。

 

始まった零VS宗谷名人の対局。
力の差は解りきっているため、勝つため以外の心で飛び込んだら、一瞬で首を吹っ飛ばされると思う零。

 

お互いに淡々と指していく二人。
零の方が優勢かと思われていたところで…駒から手を離した零は何かに気付きます。

 

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(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

もう後が無くなった。
そう悟った零は、ここからの手を最善手のみで指し通してみようと、すぐに頭を切り替えて戦い続けます。
結果は宗谷名人の勝ちとなり、零は負けてしまいます。

 

しかし、負けたにもかかわらず、零は気持ちが重くなることなく、むしろ清々しい気持ちでいられました。
それは感想戦のこと。
二人とも一言も喋らずに感想戦が行われました。

 

感想戦で零が本譜にはなかったものを指し、それを見た宗谷名人は小さく頷きます。
さらに感想戦が終わった時、零が自分の指をチラッと見ます。
それに対して、「そういうもんだよ」と言う宗谷。

 

二人で言葉を交わすことなく、通じ合っています。
以前、島田が零のことを「宗谷に似ている」と言ったことがありました。
視点の感覚や攻守の切り替えの柔軟さ、そういった部分が似ていると。

 

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(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

二人は考えや視点が似ているため、言葉にしなくても通じていました。
対局中の戦っている時も、静かで心地の良い世界にいたと零は感じたようです。

 

決着はあっさりとした終わりですが、零と宗谷の心が通じ合っていた場面が印象的です。
「そういうもんだよ」という宗谷の言葉は、零が指先に感じた痛みのことを指しているのでしょうか。
二人にしか分からない静かな世界です。

 

将棋の神様の秘密

対局が終わり、新幹線で帰ろうとした零。
しかし、しばらくすると台風の影響で新幹線が止まってしまいます。
ちょうど同じ新幹線に乗っていた宗谷名人に、零は声を掛けますが…。

 

宗谷の様子が何かおかしい。
何も届いていないかのような表情。
そこで零は、宗谷のある重大な秘密を知ることになります。

 

実は、宗谷名人は耳が聴こえていませんでした。

 

あとから零は会長から詳しい事情を聞くことになりますが、10年くらい前から宗谷の耳は聴こえなくなっていたそう。
原因はストレスらしく、聴こえる状態と聴こえない状態とを行ったり来たりしている。

 

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(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

最初の頃は病院にも行っていたそうですが、本人は「静かで面倒くさくなくていい」と言い出す始末。
宗谷がいつも一人でいたわけ、零が宗谷の周りから音が無いと感じていたのは『彼の耳が聴こえていない』からだったんですね。

 

 

耳が聴こえないのに、あんなに鬼のように将棋が強いってすごいですね。
逆に周囲の音が聴こえない分、将棋を指すことだけに神経が研ぎ澄まされて集中できるとかでしょうか。

 

さて、台風で新幹線が止まってしまい、帰れなくなった零と宗谷。
今晩泊まるホテルを探すことにします。
台風の大雨の中、零が先を歩き、その後を宗谷がついて行くという不思議な光景です。

 

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(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

何とかホテルまでたどり着き、そこで一泊することにした二人。
部屋に入る前に、宗谷は零に「ありがとう。助かった」と言葉を掛けます。

 

翌日、台風が通り過ぎて青空となった仙台で。
零がホテルの会計を済まそうとすると、すでに宗谷が支払いを済ませてくれていました。
そして宗谷の姿は無く、彼は一足先に帰っていました。

 

何だか現実感のない不思議な時間でした。
それこそ、宗谷名人の不思議ワールドですよ。

 

表情があまり変わらない人間離れしたような不思議な雰囲気の宗谷ですけど、ストレスで耳が聴こえなくなっていたってことは、彼もプレッシャーや痛みを感じていたんですよね。

『将棋の神様』も一人の人間で、ある秘密を抱えながらも孤独に戦っていた。
そんなエピソードでした。

 

たすきの重さ

零と宗谷の新人戦記念対局ともう一つ、今回8巻のメインとなる対局が島田八段と柳原棋匠の『棋匠戦』です。
これがまぁ渋いのなんの。

 

どっちも地味なオッサン二人だわ、病弱対決だわで、前回からポスターのことでイジられまくり。
前回にも増して、さらにひどい仕上がりになったポスターがこれ。

 

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(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

た、確かに…卒業アルバムの欠席の人っぽいデザイン…。
しかも、枠を取ったら取ったで「天国からいつも見守ってるよ」的な感じになっちゃって…もう打つ手がないw

 

あまりの盛り下がり具合に神宮寺会長がキレて、「もういっそ病弱を前面に出していこう!」とか冗談を言い始めるんですね。
「据え置きカメラで、残り時間と一緒に心電図と心拍数出しとこーよ!」という茶化しっぷり!

 

 

さぁ、お互い二回勝ち星を上げ、次で勝敗が決する棋匠戦の第五局目。
島田曰く、棋匠戦のために集まった記者や関係者は、ほとんど柳原棋匠の友人ばかりで、挑戦者はこの『アウェイ感』を味わうことになるという。

 

さすが、66歳で現役最年長の老棋士。
タイトル通算14期という確かな強さを持っています。

さらに、周りを自分の空気に変えてしまう喰えない強かさも持っている。
そんな化け物のような強さを持つ、柳原棋匠が背負うもの。

 

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(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

共に将棋の道を歩んできた仲間達が託した、「俺達の分まで頑張ってくれ」という、たすきでした。
発した方は縛り付ける意図はなくても、言われた方は重く絡め取られそうになる。
消えていった仲間達の沢山の想いを抱えて、柳原棋匠はここまで歩んできました。

 

 

前夜祭で、カメラマンの友人がリストラされたと言い、「俺から仕事をとったら何が残ってんだ?まるで焼け野っ原にいるみてーだ」と、柳原棋匠に語ります。
それを聞いて、「俺はまだ焼かれているまっ最中だ」と思う柳原棋匠。

今日もまた、火だるまになって存分に苦しんでやろうじゃないか。

 

老棋士の渋カッコいい台詞。
前回までのイジられ具合が嘘のように、柳原棋匠の本気モードにグッときます。
仲間達のたすきの重さを感じながら、柳原棋匠は永世のかかった棋匠戦に臨みます。

 

焼け野原にはまた草が生える

始まった棋匠戦、第五局目。
お互いに、技術も経験も積み重ねてきた二人の粘り合い。
形勢はどちらに傾くか分からないまま終盤に差し掛かり、ようやく島田が優勢になる展開が訪れます。

 

獅子王戦で敗れた後も、地味に地道にコツコツと経験を積み上げた島田は、また一枚ぶ厚くなって戦いの場に戻って来ていました。
そんな島田のことを『けやきの木』だと、戦いのさなか考える柳原棋匠。

 

 

このまま島田が初のタイトル獲得となるのか。
ふっと、自分は負けるのかと思った柳原棋匠の体から、たすきが離れていきます。

 

これまで自分を重く縛り付けていた、たすきがやっと離れていく。
楽になれると同時に、それは仲間の期待や想いを手離すということでもありました。
「駄目だ!」と、たすきを掴む柳原棋匠。

 

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(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

精一杯頑張った人間が最後に辿り着く場所が、焼け野ヶ原なんかであってたまるものか!

 

胸がアツくなる台詞。
必死にもう一度、たすきを自分の元に引き寄せる柳原棋匠の行動に、燃えるような闘志と生きる活力を感じます。

 

柳原棋匠の切り返した一手に、「じじい。若々し過ぎるだろう、その手はよ」と、思わず返す島田。
この憎まれ口もまた良い。

 

 

焼け野っ原にも、また草が生えてくる。
その緑を一緒に見るんだと心の中で思いながら、再び柳原棋匠は自身を奮い立たせて戦います。

 

零や二海堂、記者やカメラマン達も固唾を呑んで見守る激闘が続いた最後…島田の振り絞るような一言で、戦いは終わりを迎えます。
柳原棋匠は『永世棋匠』を獲得したのでした。

 

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(羽海野チカ『3月のライオン』8巻)

 

歳を重ねていくと、将棋からも人生からも一人ずつ欠けていってしまう。
好きなヤツも嫌いなヤツも含め、その全部の欠片で今の自分があるということ。

 

これまで人生の酸いも甘いも噛み分けた柳原棋匠らしい言葉です。
たすきは身動きがとれないほど重いものだが、皮肉にもそれは火だるまになる恐怖からも、逃げ出さないように縛り付けてくれていた。
そう柳原棋匠は語ります。

 

8巻のメインとなる新人戦記念対局と棋匠戦のふたつの戦いが、こうして幕を下ろします。

 

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まとめ

8巻も人間ドラマが面白いのと、話の構成が素晴らしい。
前半は、若さと独特の静かな空気を感じさせる零と宗谷名人の新人戦記念対局。
そこで零が、『将棋の神様』と言われていた宗谷のある秘密を知ることになります。

 

後半は、老いと人生について感じさせる島田と柳原棋匠の棋匠戦。
主に柳原棋匠の視点で進んでいき、仲間達との関係や彼の抱えているものがテーマとなっています。

 

そして最後には、零と川本三姉妹の夏祭りの話があります。
爽やかな空気を感じる気持ちの良い終わりです。
し、白玉が美味しそう!

これ読んだら白玉が食べたくなる。
白玉粉買ってこよう。
追記:3月のライオン8巻で出てくる白玉が食べたい【作ってみた】

 

 

8巻の見どころは、宗谷名人の秘密と柳原棋匠の戦いぶりでしょうか。
耳が聴こえていないハンデがありながら、これまでずっとトップに君臨し続けている宗谷。
いや~強い!
周りから遮断された世界にいるからこそ、逆にあれだけの強さがあるのかなと思いますね。

 

ただ、そんな神と称えられる宗谷も将棋以外の生活面では、誰かの手を借りないと困る場面もあるという。
完璧な神ではなくて、彼も一人の人間なんだという印象を受けました。

 

そして、表紙でもある柳原棋匠。
今回8巻の主役でもあるかなと思います。
まさか66歳のじいさんが、こんなにもカッコいい漫画があるとは…。

 

 

棋匠戦は読んでいてアツくなってきます。
今も最年長の老棋士として戦う、彼にしか表現できない渋い台詞の数々でした。

最後に柳原棋匠の提案で、敗れた島田も含めて全員で写真を撮るところがまた良い雰囲気なんですよ。
柳原棋匠には、これからも現役でバリバリと頑張っていただきたい。

続きはこちら。
3月のライオン9巻のネタバレ感想【受験も将棋も、支えて見守る家族の存在がある】

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あの漫画のここが気になる!!!
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